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中高生のオーケストラを聴く [音楽鑑賞]

 30年ほど前に日本フィルがフジテレビに財団を解散させられ、日本フィルを支えようという市民の運動がおこったことがあります。音楽の底辺拡大、市民の中に音楽家が入っていく、地域に根差した音楽活動をなどがスローガンのように唱えられていた時代です。私自身も日本フィルの支援をして地元にメンバーのクワルテットを呼んで「アメリカ」とか「チャイコフスキーの第1番(アンダンテ・カンタービレが第2楽章)」を弾いてもらったりしました。また地域に音楽会をと、市民が自由に使えるピアノが一台もないなかで多くの音楽会を開いてもきました。地域での種まき活動に青春の多くの時間を割いたのでした。

 時間が経過して、いまや東京では一つの街に2つの市民オーケストラがあるような状態になっています。大学の中には学部ごとにオーケストラがあるものも。東京のアマチュアオーケストラで名前が把握されている団体は300以上あるようです。多くが専門家の先生の指導を受け、土日をアマチュアの指導を掛け持ちし食べている指揮者もいるとか。それはともかく、専門家の指導を受ければ当然楽団の演奏レベルは上がります。ひと月ほど前八王子フィルの演奏を聴いた(八王子オリンパスホール)が、最初の「レオノ―レ序曲第3番」で低弦から風のようにふわっと音が伝わってきたとき、これがアマチュアの演奏であるとかはどうでもよく、「ああ、生演奏の空気感はたまらないな」と思えました。

 当然のことながら大学のオーケストラの質の向上は目覚ましく、ほとんど破たんを見せない団体も多いです。今日(2013.5.4)聴いたのはさらに年齢が下がって中学生・高校生で構成されるオーケストラです。指揮者の先生に私は市民オケでお世話になっており、楽団にはよく知っているお嬢さんも所属しています。K学園のオーケストラ。東京では有名な女子の進学校で、全校生徒は中学高校で900人足らず。うち100人がオーケストラに所属しているという驚くべき学校です。(だからティンパニなどは楽章ごとに奏者が違い、音色も違う。)オーケストラにあこがれてこの学校を受験する子も多いとか。このオーケストラは若々しくて力強いというより、理知的で繊細な演奏をする団体です。LP時代のアンセルメ指揮スイス・ロマンドの系統。

 しかし、「耳が肥えている」とよく人様からおほめいただくのを自慢する気はありませんが、もし「耳が肥えている」のならそれも幸福なことではないかもしれません。自分がオーケストラで弾いていることもあって、キズを聴いてしまうのですね。今日のK学園のオーケストラでいえばフレーズの最後を長く伸ばす音での音程の悪さが耳について、どうして自分の出している音を微調整しないんだろうという思いを最後まで引きずってしまいました。
 
 さらに音が小さくて。チャイコフスキーのフォルテ3つの指示はもっと生かしてほしかったし、スラヴ的なイメージや過酷な運命との相克のイメージから遠いのです。たとえばヴィオラが12人もいるのに、出てくる音はとても繊細。主旋律が弦にあるのに、管楽器の和音で消されてしまっている場面も多くありました。そしてヴァイオリンに限って言えば、前の3プルトの音は目立ってよく聞こえるのですが、後ろの方になると弓は確かに動いていて、ピチカートもはじかれているのに、音よりも動きの印象が強いのです。たとえばチャイコフスキーの第5シンフォニー第1楽章第1テーマの裏、半音階の加工でピチカートを受け渡していく部分など、もっと面白い音楽なのにどうしてそれを表に出して楽しまないのだろう、という思いがわいてしまいます。まじめなお嬢さんが多くて、正確に正確にという思いが先に立っているのでしょうか?クラシック音楽(は硬い)という思いが強いのでしょうか?

 指揮の先生と終演後話したところ、ヴァイオリンの前の方のプルトは、この演奏会で引退する高校3年の子たちで、「自分たちの演奏で音楽を再現しないで誰が音楽をやってくれるんだ」「自分たちがオケをひっぱらなくては」という意識が他の学年の子たちとは違うというのです。いくらヴァイオリンを小さい時から習っていて達者に弾いても、作品の中を生きて再現していく力が演奏に出るわけではない。」とも。音楽は再現芸術です。その音楽の世界を生きるという意味が、「これが最後だ」という場面に向かい合った若者たちによって自覚され実現されているのを見た。聴いた。そういう体験を私はしてきたというわけです。これは目覚ましいもので感動的です。

 話の順が逆になってしまっているかもしれません。キズが目立のはいい面の方が多いからですね。たとえばテーマの歌い始め方がなめらかで繊細。そしてクレッシエンドしていくときに全員が一丸となって気持ちを込めて盛り上がっていくのはほんとうにこころよい体験です。指揮をすごくよく見てます(私などは楽譜にかじりつきっぱなし)。指揮の先生は「練習中、そんなに見つめないでくれ(爆笑)」とよく言うらしいです(笑)。たのしそうな練習風景が思い浮かびます。

 そしてなにより、選んでいる曲が「薔薇の騎士」のワルツ、武満徹の映画音楽のワルツ、ラヴェルのラ・ヴァルス、そして第3楽章にワルツをもつチャイコフスキーの第5番。ラフマニノフの第2交響曲第2楽章が長大なアンコールです。これはすごいレベルで、これを消化しただけでも称賛と脅威に値します。楽器を中学校から始めた子の方が多いのです。5年間でこのレベルというのは驚異的で、これを育て上げた先生方の手腕とお嬢さんたちの勉強と両立させての努力はすばらしいです。

 私がよく知っているお嬢さんもよく弾いていたのですが、きのうは全国模試、演奏会の後は塾で受験勉強。

 こういうひたむきな若者たちに大人世代は幸福な未来を提供できているのでしょうか。原発事故やら憲法改正の動きやらを考えました。袋小路に話を持ち込んで大局や未来への展望を示さない大人たち。未来の世代に核廃棄物やら膨大な借金を残すが、その責任の所在はあいまいにしてしまう大人世代。自分を含めたありかたまで思いが及びながらの帰途は重い足取りとなっていました。
 
 ごくろうさま。
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carlos

ご無沙汰しております。
2014年スプリングコンサートのお知らせが、晃華学園ホームページにアップされました。
ご来場いただけたら幸せです。
どうぞ、お手柔らかに…
by carlos (2014-04-10 20:30) 

ケリー・ジョーソン・ベーム

ご連絡ありがとうございます。ローマ三部作にリヒャルト・シュトラウス、氏ユーマンの4番に取り組ませる学校!すごい教育力を感じます。それを消化するティーンエイジャーのお嬢さんたち。晃華学園ファンになってしまいます。そして日本の輝かしい未来は女性が築いていくことが確信されますね。

 ただ、残念なことに5月4日は山形を旅行中で、聴きに伺えません。皆さんの奮闘をお祈りいたします。
by ケリー・ジョーソン・ベーム (2014-04-14 02:58) 

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